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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)11076号 判決 1979年8月28日

甲事件原告・乙事件被告

山崎義治

ほか一名

甲事件被告

加藤賢二

甲事件被告・乙事件原告

加藤守男

ほか一名

甲・乙事件被告

千代田火災海上保険株式会社

主文

一  甲事件原告らに対し、甲事件被告加藤賢二は、各金九九一万一六五円、甲事件被告加藤守男、同加藤シズエは各自、各金四九五万五〇八二円及びこれらに対する昭和五一年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告らの甲事件被告加藤賢二、同加藤守男、同加藤シズエに対するその余の請求及び甲事件被告千代田火災海上保険株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

三  乙事件原告加藤守男、同加藤シズエの乙事件被告山崎義治、同山崎茂子、同千代田火災海上保険株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲、乙事件を通じ、山崎義治、山崎茂子と加藤賢二、加藤守男、加藤シズエとの間に生じた部分は、これを一〇分し、その一を山崎義治、山崎茂子の、その余を加藤賢二、加藤守男、加藤シズエの負担、山崎義治、山藤茂子と千代田火災海上保険株式会社との間に生じた部分は全部山崎義治、山崎茂子の負担、加藤守男、加藤シズエと千代田火災海上保険株式会社との間に生じた部分は全部加藤守男、加藤シズエの負担とする。

五  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 甲事件原告(乙事件被告、以下単に原告という。)らに対し、

(一) 甲事件被告(以下単に被告という。)加藤賢二は、各金一二一七万八〇二〇円

(二) 甲事件被告(乙事件原告、以下単に被告という、加藤シズエも同じ)加藤守男、同加藤シズエは、各自、各金六〇八万九〇一〇円

(三) 甲、乙事件被告(以下単に被告という。)千代田火災海上保険株式会社は、各金一〇〇〇万円

及び右各金員に対する昭和四九年一〇月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告加藤賢二、同加藤守男、同加藤シズエの答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

三  請求の趣旨に対する被告千代田火災海上保険株式会社の答弁主文同旨の判決

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 被告加藤守男、同シズエに対し

(一) 原告山崎義治、同山崎茂子は、各自、各金一三一〇万円

(二) 被告千代田火災海上保険株式会社は、各金一五〇〇万円及び右各金員に対する昭和五〇年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する原告ら、被告千代田火災海上保険株式会社の答弁

主文同旨の判決

第二当事者の主張

(甲事件)

一  請求の原因

1(事故の発生)

昭和四九年一〇月一九日午前六時二五分ころ、神奈川県茅ケ崎市浜須賀一八番地先路上を走行していた訴外亡加藤武司(以下武司という。)の運転する普通乗用自動車(相模五六さ五七四七号、以下本件事故車という。)が道路の中心線標示板に乗り上げ、その衝撃でハンドルを取られて道路左端にある街路燈鉄柱に衝突し、そのため同車の助手席に同乗していた訴外亡山崎清治(以下亡清治という。)は即死した。

2(責任)

(一) 被告加藤賢二(以下被告賢二という。)は、本件事故車を自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき右事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二)(1) 亡武司は、本件事故車を運転するに際し、常に前方を注視し、道路の中心線標示板に同車を乗り上げたり、ハンドルを取られたりしないよう注意すべき義務があるのに、これを怠つた過失により、同車を道路中心線標示板に乗り上げさせ、その衝撃でハンドルを取られたため、本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条に基づき右事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(2) 亡武司は右事故で死亡したものであるところ、被告加藤守男(以下被告守男という。)、同加藤シズエ(以下被告シズエという。)は、亡武司の父母であり、右債務を法定相続分に従い二分の一ずつ相続により承継した。

(三)(1) 被告千代田火災海上保険株式会社(以下被告千代田火災という。)は、昭和四九年一〇月一五日、被告賢二との間で、本件事故車につき、保険者を被告千代田火災、被保険者を同賢二、保険期間を右同日から一年間、保険金額を死亡者一名につき金二〇〇〇万円とする対人賠償責任保険契約(家庭用自動車保険、以下本件保険契約という。)を締結した。

(2) 原告山崎義治(以下原告義治という。)、同山崎茂子(以下原告茂子という。)は、本件事故により後記のとおりの損害を被つたので、被告千代田火災は本件保険契約に基づき、原告らに対し直接、保険金を支払うべき義務がある。また、仮に、本件保険契約上、被告千代田火災は被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定した時に、保険金支払義務を負担するものであるとするならば、原告らは、原告らと被告賢二間との本判決が確定することを条件として、原告らに対し、直接、保険金を支払うことを求める。

(3) 仮に、原告らの被告千代田火災に対する右保険金の直接請求が認められない場合、原告らは被告賢二に対し前記のとおり損害賠償債権を有しており、かつ、同賢二は無資力であるので、民法四二三条に基づき、右債権を代位債権として、同被告が被告千代田火災に対して有する本件保険契約に基づく保険金請求権を同被告に代位して請求する。

3(損害)

(一) 亡清治の逸失利益

亡清治は、本件事故当時一九歳で職業を有しており、本件事故により死亡しなければ六七歳まで稼働し、その間昭和四九年一〇月一九日から一二月末日までの間は金一一三万二五八八円(右は、亡清治が当時の勤務先である訴外松下電器産業株式会社から昭和四九年一月から一〇月までの間に支給された給与、賞与(上期)の合計額を年額に換算した金一一九万六一七二円を基礎として算出したもの)、また、昭和五〇年、同五一年は、右各年度に対応する賃金センサスの額(企業規模計、産業計、男子労働者、中学卒、全年齢平均給与額)と同額の、昭和五二年から同人が六七歳に達する昭和九八年までは、毎年、昭和五二年賃金センサスの額(前回)と同額の収入をそれぞれ得られたはずで、右の額から同人の生活費としてその五割を控除し、更に年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除し、亡清治の死亡による逸失利益の現在価額を算出すると、その額は金二二九五万六〇四〇円となる。

(二) 亡清治本人の慰藉料

亡清治は、本件事故により一九歳で死亡し多大な精神的苦痛を被つたが、これが慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

(三) 相続

原告義治、同茂子は亡清治の父母であるところ、右(一)、(二)の損害賠償債権を法定相続分に従い各二分の一ずつ相続により取得したので、右債権額はそれぞれ金一四四七万八〇二〇円となる。

(四) 葬儀費用

原告義治、同茂子は亡清治の葬儀を執り行ない、金四〇万円を支出したが、同原告らはそれぞれ金二〇万円ずつ負担した。

(五) 原告ら固有の慰藉料

原告義治、同茂子は本件事故により長男である亡清治を失い、多大の精神的苦痛を被つたが、これを慰藉するには、それぞれ金一〇〇万円が相当である。

(六) 損害の填補

原告義治、同茂子は、自動車損害賠償責任保険から、それぞれ金五〇〇万円の支払を受けたので、右損害賠償債権中(三)ないし(五)について金額に応じて按分充当した。

よつて、末だ弁済されない残債権額は、原告義治、同茂子それぞれについて各金一〇六七万八〇二〇円となる。

(七) 弁護士費用

原告義治、同茂子は本件訴訟の提起追行を原告ら訴訟代理人に委任し、右弁護士費用として金三〇〇万円を支払う旨約し、それぞれ金一五〇万円ずつ負担することとした。

よつて、原告らはそれぞれ被告賢二に対し各金一二一七万八〇二〇円、被告守男、同シズエそれぞれに対し各金六〇八万九〇一〇円、被告千代田火災に対し各金一〇〇〇万円及びこれらに対する本件事故の日である昭和四九年一〇月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告賢二、同守男、同シズエの認否

1 請求の原因1のうち、亡武司が本件事故車を運転し、亡清治が助手席に同乗していたとの事実は否認し、その余の事実は認める。本件事故車を運転していたのは亡清治であり、亡武司は助手席に同乗していたものである。

2 同2(一)のうち被告賢二が本件事故車の運行供用者であつたことは認める。同(二)(1)のうち、本件事故車の運転者が、本件事故車を道路中心線標示板に乗り上げさせ、その衝撃でハンドルを取られ、本件事故を発生させたことは認めるが、その余の事実は争う、同(2)のうち、亡武司が本件事故で死亡したこと、被告守男、同シズエが亡武司の父母であることは認めるが、その余は争う。

3 同3のうち、原告義治、同茂子が亡清治の父母であり、亡清治の相続人であること、原告らが自動車損害賠償責任保険から各金五〇〇万円の支払を受けたことは認め、その余は争う。

三  請求の原因に対する被告千代田火災の認否

1 請求の原因1のうち、原告ら主張の日時場所で本件事故車が街路燈に衝突し、亡清治が即死したことは認めるが、亡武司が本件事故車を運転し、亡清治が助手席に同乗していたとの事実及び事故の具体的状況は知らない。

2 同2(一)及び2(三)(1)の事実は認めるが、同(2)の主張は争う。

本件保険契約に適用される「家庭用自動車保険普通保険約款」一章「賠償責任条項」六条一項及び二項には、保険会社が被害者に直接支払義務を負担する場合は、被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定したとき又は裁判上の和解調停が成立したとき等の所定の要件を満たした場合に限る旨規定されており、本件ではこれが満たされていない以上、保険会社に対する直接請求権は具体化されておらず被告千代田火災に支払義務はない。

同(3)のうち、被告賢二が無資力であることは否認し、その余の主張は争う。

3 同3のうち原告らが自動車損害賠償責任保険から金一〇〇〇万円の支払を受けた事実は認めるが、その余の事実は知らない。

四  被告千代田火災の抗弁

1 仮に、事故当時本件事故車を運転していたのが亡武司であつたとしても、同人は当時大量に飲酒し酩酊していたもので、これが本件事故の一因を成しており、亡清治としては、右飲酒の事実を知つていたのであるから、亡武司の運転を止めさせることはもとより、本件事故車に同乗すべきでなかつたのに、敢えてこれに同乗し本件事故に至つたものであるから、亡清治の損害を算定するに当つては、右の点につき大幅な過失相殺がなされるべきである。

2 また、亡武司は亡清治と同じ職場に勤務していた同僚で、当日は仕事を終え共に飲酒後その好意により亡清治を同乗させたものであり、亡清治の損害を算定するに当つては好意同乗者としての減額がなされるべきである。

五  抗弁に対する原告らの認否

抗弁事実1、2はいずれも争う。

(乙事件)

一  請求の原因

1 (事故の発生)

甲事件請求の原因1の日時場所で、亡清治の運転する本件事故車が道路左端にある街路燈鉄柱に衝突し、そのため同車助手席に同乗していた亡武司が即死した。

2 (責任)

(一)(1) 本件事故車は、被告賢二が所有権留保付月賦販売で購入し、本件事故時には、亡武司が被告賢二から借用し、更に、亡清治が亡武司から借用して自分のドライブに使用中であつたもので、自己のため運行の用に供していたのであるから、亡清治は自動車損害賠償保障法三条に基づき後記損害を賠償すべき義務がある。

(2) また、亡清治は、本件事故車を運転するに際し、道路の中心線標示板に同車を乗り上げたり、ハンドルを取られたりしないよう注意すべき義務があるのにこれを怠つた過失により、同車を道路中心線標示板に乗り上げさせ、その衝撃でハンドルを取られたため、本件事故を発生させたのであるから、亡清治は民法七〇九条に基づき後記損害を賠償すべき義務がある。

(3) 亡清治も右事故で死亡したものであるところ、原告義治、同茂子は亡清治の父母であり、右債務を法定相続分に従い二分の一ずつ相続により承継した。

(二)(1) 被告千代田火災は、本件事故車につき被告賢二との間に同被告を記名保険者とし本件事故発生日を保険期間内とする死亡者一名についての保険金額金一〇〇〇万円の強制保険契約と死亡者一名についての保険金額金二〇〇〇万円の対人賠償責任保険契約(家庭用自動車保険)を締結した。しかして、亡清治は、前記のとおり、本件事故車を被告賢二から借受けた亡武司から更に借受けてドライブ中であつたから、右保険約款一章三条一項三号に準じ亡清治も被保険者となる。

(2) ところで、本件保険契約によれば約款上被害者が保険会社に対し、直接保険金を請求できる旨の定めはないが、任意保険にあつては少数の保険会社が独占事業として営み、約款も経済的優位のもとに一方的にその内容を定めているところから、国民一般の正義感情、公平観を基礎とする民事法の目的からしてこれに司法的規制を加えることが必要であり、以下の理由により約款に定めがなくともこれを補充して被害者に保険金の直接請求権を認めるべきである。

(イ) 本件のような責任保険の目的は、第一に被保険者である加害者が被害者からの損害賠償請求に対処し、加害者として損害賠償債務を負担することによる損害を保険により填補することであり、第二に正当な賠償額に見合う保険金を早期かつ確実に被害者に支払い加害者としての誠意を尽すことにある。そして、その内容は保険契約者が被保険者の利益のために契約する第三者のためにする契約に類したものであり、このことは被害者の利益が他人によつて保険契約が締結されたことによる反射的な利益であるとしても変わりはない。

(ロ) そして責任保険の右のような目的からも、また保険会社が前もつて保険料の支払を受け財源を確保運用していることからも加害者の損害賠償債務の履行期が到来すれば、保険金支払債務も同時に履行期が到来するものとしなければならず、これを別異なものとして加害者に遅延損害金あるいは争訟費用を負担させてはならないし、また加害者に賠償金を一時立替えさせるようなことがあつてはならない。

(ハ) また、賠償もしていない加害者に保険金請求権を認め、被害者に保険金の直接請求権を認めないと、加害者に支払われた保険金を加害者において流用、隠匿するなどして被害者に支払わない危険性があるばかりか、保険金が加害者の債権者らによる差押の対象となり、被害者に確実に支払われない虞れもあり、被害者に保険金の直接請求権を認めないことは公序良俗の見地からも絶対に許されない。

(ニ) 保険会社は、加害者と被害者間の損害額の確定について重大な利害関係を有し、現実には保険会社自ら示談交渉や裁判手続に事実上参加しているのであつて、実質上の利害関係者は保険会社と被害者であり、被害者において保険会社に対して保険金を直接請求できるとした方が、被害者と加害者間の損害額の確定及び被保険者と保険会社間の損害額の確定という二重手間を省くことができ、被害者を早期に救済するという責任保険の目的にも合致する。

(ホ) また、この責任保険における直接請求権は、他人の物の保管者の所有者に対する損害賠償債務について商法六六七条で所有者について認められている他、自動車損害賠償保障法一六条一項では、強制保険について被害者の直接請求権を認めている。

右商法六六七条、自動車損害賠償保障法一六条の規定は、我国の国民一般の正義感情を反映したものであつて、責任保険における強制保険と任意保険との違いは保険の締結を強制しているか否かの違いによるだけであり、任意保険に対して司法的規制を行なう場合の手がかりとすべきである。

更に外国法においても、フランス保険契約法五三条、ドイツ保険契約法一五六条、イタリア民法一九一七条二項は、いずれも被害者の直接請求権を明らかにしており、参考とすべきである。

(ヘ) なお、本件保険契約において、保険金の支払は事故の被害者と加害者である被保険者との間で和解ないし判決の確定を前提要件とする旨の条項が存在するが、右のような前提要件を付する必要性も正当利益もなく、利用者の利益を犠性にするものであるから、右条項は無効とすべきである。

したがつて、被告守男、同シズエは被告千代田火災に対し、強制保険金額の限度においては自動車損害賠償保障法一六条一項に基づき損害賠償額の、右金額を超える分については本件保険契約に基づき直接保険金の各支払を求める。

(3) 仮に、被告守男、同シズエの被告千代田火災に対する強制保険金額を超える分についての右保険金の直接請求が認められない場合、被告守男、同シズエは後記のとおり原告らに対して後記損害賠償債権を有しており、原告らは亡清治の有する被告千代田火災に対する保険金請求権を承継取得しており、かつ、原告らは無資力であるので、民法四二三条に基づき右損害賠償債権を代位債権として、原告らが有する本件保険契約に基づく保険金請求権を原告らに代位して請求する。

3 (損害)

(一) 亡武司の逸失利益

亡武司は、本件事故当時一九歳(昭和三〇年五月六日生れ)で、本件事故により死亡しなければ六七歳となる昭和九八年三月まで四八年五か月間稼働し、昭和四九年一〇月二〇日から同五〇年三月末日までは一か月平均金九万円、合計金四五万円を下らない収入を、昭和五〇年度(同五〇年四月一日から同五一年三月末日まで)、同五一年度(同五一年四月一日から同五二年三月末日まで)、同五二年度(同五二年四月一日から同五三年三月末日まで)は、右各年度に対応する賃金センサスの額(企業規模計、産業計、男子労働者、中学卒、全年齢平均給与額)である金二一六万三九〇〇円、金二三二万三〇〇円及び金二五五万九八〇〇円の収入を、昭和五三年度(同五三年四月一日から同五四年三月末日まで)以降同九七年度(同九七年四月一日から同九八年三月末日)までは、毎年度、昭和五二年賃金センサス(前同)による額に昭和五三年度の主要企業の賃上げ率五・九パーセントを乗じた額即ち金二七一万八二八円の収入をそれぞれ得られたはずで、右の額から同人の生活費としてその五割を控除し、更に年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除し、亡武司の死亡による逸失利益の昭和五〇年四月一日現在の価額を求めると金三二四二万円(一万円未満切捨て)となる。

(二) 亡武司本人の慰藉料

亡武司は、本件事故により一九歳で死亡し多大な精神的苦痛を被つたが、これが慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

(三) 相続

被告守男、同シズエは、亡武司の父母であるところ、右(一)(二)の損害賠償債権を相続と同一の方法で被告らに配分すると、その債権額はそれぞれ金一九二一万円となる。

(四) 葬儀費用

被告守男、同シズエは、亡武司の葬儀を執り行ない、それぞれ金二〇万円ずつ支出した。

(五) 近親者固有の慰藉料

被告守男、同シズエは、本件事故により息子である亡武司を失い多大の精神的苦痛を被つたが、これを慰藉するには、それぞれ金四〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用

被告守男、同シズエは、本件訴訟の提起追行を右被告ら訴訟代理人に委任し、右弁護士費用として本訴認容額の一二パーセントに相当する金二八〇万円をそれぞれ支払う旨約した。

よつて、被告守男、同シズエはそれぞれ原告義治、同茂子それぞれに対し各金一三一〇万円、被告千代田火災に対し保険金額の範囲内である各金一五〇〇万円及びこれらに対する本件事故後の昭和五〇年四月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する原告らの認否

1 請求の原因1のうち、亡清治が本件事故車を運転し、亡武司が助手席に同乗していたとの事実は否認し、その余の事実は認める。本件事故車を運転していたのは亡武司であり、亡清治は助手席に同乗していたものである。

2 同2(一)(1)のうち、亡清治が本件事故車を亡武司から借受けて運転していたもので、同人が運行供用者であつたとの事実は否認し、その余の事実は認める。同(2)のうち、亡清治が運転していたこと及び注意義務の主体であることは否認し、その余の本件事故の態様及び注意義務の内容は認める。同(3)のうち亡清治が本件事故で死亡したこと、原告義治、同茂子が亡清治の父母であることは認め、その余は争う。

3 同3のうち、被告守男、同シズエが亡武司の父母であることは認めるが、その余は争う。

三  請求の原因に対する被告千代田火災の認否

1 請求の原因1のうち、亡清治が本件事故車を運転し、亡武司が助手席に同乗していたとの事実は知らない、その余の事実は認める。

2 同2(二)(1)のうち被告賢二と被告千代田火災との間に主張のとおりの各保険契約が締結されたことは認めるが、その余の事実は知らない。同(2)の主張は争う。

右対人賠償責任保険契約において、被告守男、同シズエの被告千代田火災に対する直接請求権はいまだ具体化されておらず、被告千代田火災に支払義務のないことは甲事件において主張したとおりである。

同(3)のうち、原告らが無資力であることは否認し、その余は争う。

3 同3の事実は知らない。

四  被告千代田火災の抗弁

1 仮に、事故当時本件事故車を運転していたのが亡清治であつたとしても、同人は当時大量に飲酒し酩酊していたもので、これが本件事故の一因を成しており、亡武司としては、右飲酒の事実を知つていたのであるから、亡清治の運転を止めさせることはもとより、本件事故車に同乗すべきでなかつたのに、敢えてこれに同乗し本件事故に至つたものであるから、亡武司の損害を算定するに当つては、右の点につき大幅な過失相殺がなされるべきである。

2 また、亡清治は亡武司と同じ職場に勤務していた同僚で、当日は仕事を終え共に飲酒後その好意により亡武司を同乗させたものであり、亡武司の損害を算定するに当つては好意同乗者としての減額がなされるべきである。

五  抗弁に対する被告守男、同シズエの認否

抗弁事実1、2はいずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

(甲事件)

一  昭和四九年一〇月一九日午前六時二五分ころ、神奈川県茅ケ崎市浜須賀一八番地先路上において、本件事故車が道路左端にある街路燈鉄柱に衝突し、そのため、本件事故車に乗車していた亡清治と亡武司の両名が即死したことは全当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故時において本件事故車を運転していた者が亡清治、亡武司いずれであるかの点について判断する。

1  証人広瀬恵子の証言によつて成立の認められる甲第八号証、証人岩田庸一の証言によつて成立の認められる甲第九号証、証人広瀬恵子、同岩田庸一、同佐藤祐子の各証言を総合すると、亡武司は本件事故当時平塚市所在のスナツク「絵夢の森」に調理師として働き、本件事故前日も夕刻から勤務していたところ、事故当日の午前二時ころ、亡武司の友人で以前同スナツクの従業員として稼働していたことのある亡清治が客として来店したが、その際同人は既に大分酒を飲み酩酊した状態であつたこと、そして、午前四時ころ閉店となつたが、その後亡武司、亡清治のほか店の女主人の訴外鈴木宏子、調理師の訴外岩田庸一、ウエイトレスの訴外広瀬恵子、同佐藤祐子及び客の訴外原田、同飯原の八名は訴外岩田の運転する乗用車と、亡武司の運転する本件事故車の二台に分乗し、まず訴外原田と同鈴木宏子をそれぞれ自宅に送つたうえ、残つた六名で辻堂のおでん屋へ行き、同所で、午前四時三〇分ころから全員で食事をしたり、飲酒をしたりし、亡武司はウイスキーの水割りを一、二杯飲んだこと、そして、午前六時すぎころ、飲食も終り帰宅することとなつたが、その際訴外岩田の運転する車には訴外佐藤、同飯原の二名が同乗し、本件事故車には、運転席に亡武司、助手席に亡清治、後部座席には、訴外広瀬がそれぞれ乗車したが、そのころ亡清治はまだ大分酩酊状態にあつたこと、右おでん屋を出発した後は訴外岩田の運転する車が時速約七〇キロメートルで先行し、その二〇ないし三〇メートル後を本件事故車がほぼ同速度で進行し、出発後四、五分で本件事故現場に到つたこと、訴外広瀬は出発後二、三分間は後部座席に座つており、次いで座席に横になつたが、横になつて一、二分後に本件事故が発生したもので、同人はその間居眠りしたことはなく亡武司と亡清治とが運転を交替した事実も目撃しておらず、本件事故車が途中停車した事実も全くなかつたこと、本件事故車は、亡武司の兄である被告賢二が購入して四、五日目の新車で、亡武司は普段から他人に車を運転させることを厭がり、本件事故当日も本件事故車を運転するため酒をひかえ、前記おでん屋で飲酒した他は酒を飲んでいなかつたことがそれぞれ認められる。

2  更に、前掲各証拠に加え、成立につき争いのない乙第三五ないし第三八号証、第四二号証の一ないし三、第四三号証、第四四号証の一ないし三、第五二号証、証人兼鑑定人東郷和英尋問の結果により成立の認められる乙第五三号証、被告加藤賢二本人尋問の結果により成立の認められる乙第三九、第四〇号証、昭和五一年一二月五日、国道一三四号線を西方に進行した状況を撮影した写真であることに争いのない乙第三〇号証の一ないし一八、前同日、バス浜須賀停車場附近を撮影した写真であることに争いのない乙第三一号証の一ないし二〇、前同日、浜須賀交差点附近を撮影した写真であることに争いのない乙第三二号証の一ないし一八、前同日、湘南新道を南西に進行した状況を撮影した写真であることに争いのない乙第三三号証の一ないし六、前同日、市道チサンマンシヨン前通を撮影した写真であることに争いのない乙第三四号証の一ないし三、証人石井正春の証言により本件事故当時本件事故現場を撮影した写真であることが認められる乙第一五ないし第二四号証及び証人白石徹也、同若林俊明、同栗原康幸、同石井正春の各証言、証人兼鑑定人東郷和英尋問の結果、被告加藤賢二本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場は、江の島方面から平塚市方面へ向かつて東西に延びた歩車道の区別のある国道一三四号線上で、車道の南側下り車線の道路幅員は約六・八メートル、歩道の幅員は約一・六五メートルあり、歩・車道の間に最大幅員約三・五メートル、長さ約七三・四メートルのほぼ台形状の待避帯が設けられており、歩道部分は車道面より約〇・二メートル高くなつていて、右待避帯ほぼ中央の歩道上には浜須賀バス停留所の標識及びその西方約一四メートルの地点に高さ約一〇メートルの本件街路燈鉄柱が設けられていること、本件事故後、本件鉄柱東側の前記待避帯路面上に歩道部分の縁石線に沿つて約一〇メートル余にわたり本件事故車のタイヤ痕が付いていた他、右条痕に平行して歩道上にも車体の一部が擦つたために付いたと思われる条痕があり、右鉄柱は、ほぼ根本附近から折れ曲がり、先端は約七メートル西方のガードレール上に倒れかかるようにして乗つていたこと、本件事故車は二扉のコロナ・マークⅡハード・トツプ型であるところ、屋根を下にし、先頭部分を北西に向けて右鉄柱とガードレールの上に乗つており、鉄柱を軸にして屋根中央へ向かい車体前後がくの字に曲つており、フロントガラスは全損し、屋根を支えている前面の二本の支柱は外れ、主として助手席側屋根が後方へ押しやられ、屋根部分が空いてしまつており、更に同車の助手席側扉は、右鉄柱の根本東側に外側がくいこむようにして外れており、同扉の内側窓枠下端に亡清治が当時着用していた白いシヤツの左脇腹部分の布が手の平大にちぎれて附着していたこと(なお、被告加藤賢二本人尋問の結果によると、同人は、本件事故における実況見分を担当した警察官の訴外白石徹也から、同扉内側に附着していたのは、ぼろぼろになつた亡武司の青いセーターの切れ端であると聞いた旨供述しているが、証人白石徹也、同若林俊明の各証言と対比して措信できない。)、がそれぞれ認められ、他に右認定を覆えす証拠はない。

以上認定事実特に1の事実及び2の助手席扉の内側に亡清治着用の白シヤツの布切れが附着していた事実を総合勘案するならば、本件事故時に事故車を運転していたのは亡武司であつて、亡清治は助手席に乗車していたものと認めざるを得ない。

これに対し、被告加藤らの依頼によつて本件につき鑑定をした東郷和英は、その鑑定結果を明らかにした前掲乙第四一号証、第五〇号証の一ないし五、第五四、第五七号証、第五九号証の一ないし四〇、第六〇号証の一ないし四〇、第六一号証の一ないし三、第六二号証の一、二、第六三、第六四号証及びその証人兼鑑定人尋問において、本件事故車は時速八〇ないし九〇キロメートルで、本件道路を東方から西方へ進行し、本件事故現場附近にさしかかつた際、左後輪を歩道上に、右後輪及び両前輪を車道上に置いて、進行方向に対して右斜めになつた状態で歩道縁石に沿つてすべるようにして進行し、本件鉄柱に助手席側扉附近を衝突させ、その反動で前記扉上部を支点に上方へ横転を始め、車体左側面が地上から六〇センチメートル位上昇した際、車体は地面に対し垂直になり屋根中央に鉄柱が食い込み、それと同時に鉄柱は根本から倒れ、車体は横転の度合いを深めながら空中を飛んで行き前記停止位置に落下したが、助手席側扉は、鉄柱が倒れていつた時点で車体から外れたもので、本件事故における運転席及び助手席に位置していた乗員の身体の運動は、衝突後回転を始めるまでは、座席に座つたままの位置で動かず、車体の屋根に鉄柱が食い込んだ際に屋根の方向へ押し上げられ、運転席側の者は天井に頭を打たれ頭蓋底骨折を起こし、この反動で身体は元の座席にたたき落とされ、その際ハンドルで睾丸を上下に擦られ陰嚢を破裂させ、更に、食い込んできた鉄柱に激突し腕に痣が生じ、肋骨が骨折し、骨盤も骨折したもので、他方助手席側の者は鉄柱が衝突した際、車体の天井の縁で左頸部下顎部に挫創を生じたもので、右各傷害は座席の位置が逆の場合には生じる可能性が少なく、また、落下位置との関係では、助手席側の者は助手席側の扉が車体から離脱すると同時に鉄柱の根本附近に落下し、運転席側の者は、その後車の停止位置に近い方まで車体内に留つた後、助手席側扉から落下したもので、これらを合わせ考えると、運転席には亡清治が、助手席には亡武司が各乗車していたものと判断すべきであるとする。確かに前掲1、2掲記の各証言に右各証拠を加えて総合検討すると、亡武司、亡清治両名の倒れていた位置は右東郷鑑定において指摘する位置であり、また本件事故車が本件鉄柱に衝突するまで及び衝突してから停止するまでの事故車自体の運動経過については鑑定の結果のとおりと推認できなくはない。

しかしながら、前記認定のとおり本件事故車の助手席側扉の内側に亡清治が当時着用していた白いシヤツの左脇腹部分の布がちぎれて附着していたのであつて、右のような事実は亡清治が運転席にいた場合には事故車の運動及び破損経過からして起こり得ないものと考えられ、その点東郷鑑定人も自認するように、同鑑定では右事実を右鑑定の前提事実から外しているところからして、右鑑定結果については疑問を抱かざるを得ず、また、成立に争いのない乙第二五、第二六号証、証人岩田庸一、同佐藤祐子、同小澤良造の各証言、被告加藤賢二本人尋問の結果によると、確かに、亡武司には左頸部下顎部挫創、頸椎脱臼骨折があり、亡清治には、頭蓋底骨折、肋骨、骨盤骨折、睾丸露出があつたこと(なお、被告加藤賢二本人尋問の結果によると、本件事故後、亡清治の両腕に痣のような斑紋がみられた旨述べているが、他に右事実の存在を窺わせる証拠はないばかりでなく、原告山崎茂子本人尋問の結果によると右事実はなかつた旨述べており、結局、右事実は確定できないものと言わざるを得ない。)が認められるが、他方、前掲乙第二五、第二六号証、証人小澤良造の証言によると、亡清治には、前記各傷害の他、左鎖骨骨折、左前腕挫創があり、亡武司には、前記各傷害の他、右大腿骨骨折、右肘、右上腕、右足挫創と、前記左頸部下顎部挫創の他は、身体の右側面に受傷が多いことが認められ、右事実からすると亡武司の身体の右側面に扉等の受傷物体が存した可能性があり、結局両名の受傷部位及び内容から直ちに各人の乗車位置を確定することは困難であり、更に、証人柳沢美弘の証言、被告加藤賢二本人尋問の結果によると、亡武司の身体にはフロントガラスを支える黒いゴム紐が、同人の腕を外して胸のまわりにからみついていたことが認められ、右事実に前記のような本件車体の運動方向や前面及び天井部分の破損状況を併せ考えると、亡武司は割れたフロントガラス部分ないしは後方へ押しやられたために空いた天井部分から車外に放り出された可能性も考えられ、東郷鑑定人の判断するように助手席から順番に人体が落下していつたものであるとのみ断定することはできないものといわざるを得ない。以上の諸点を種々勘案するならば、こと車体の運動の点に関してはともかく、乗員の運動に関してその判断のとおりであつたか否かは疑問が残り、同鑑定の結果も直ちに措信することはできず、結局亡武司は運転席に、亡清治は助手席に乗車していたとする前記認定を覆えすことはできないものといわざるを得ない。

三  そこで、被告賢二、同守男、同シズエの責任について判断する。

1  被告賢二が本件事故車の運行供用者であることは原告らと被告らとの間に争いがないので、同被告は自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

2  本件事故車の運転者が、同車を道路の中心線標示板に乗り上げさせ、その衝撃でハンドルを取られ、同車を道路左側端にある街路燈鉄柱に衝突させたことは原告らと被告守男、同シズエとの間に争いがなく、亡武司が本件事故当時事故車を運転していたことは前記認定のとおりであるから、他に特段の主張立証のない以上本件事故は亡武司が本件事故車を運転するにあたり、同車を道路の中心線標示板に乗り上げさせたりしないよう安全に運転すべき義務があるのに、これを怠つた過失により発生せしめたものであると認めざるを得ず、そうだとするならば、亡武司は民法七〇九条に基づき本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

しかして、亡武司が本件事故で死亡したこと、被告守男、同シズエが亡武司の父母であることは原告らと被告守男、同シズエとの間に争いがなく、その成立に争いのない乙第一号証によると、右被告らの他に亡武司の相続人のいないことが認められ、以上の事実によると、右被告らは、亡武司の右損害賠償債務を法定相続分に従い、二分の一ずつ相続により承継したことが明らかである。

四  以下亡清治の死亡による損害について判断する。

1  亡清治の死亡による逸失利益

原告らと被告賢二、同守男、同シズエとの間で成立に争いのない甲第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証、第一〇号証、乙第八号証の一ないし三、第四五、第四六号証、原告山崎茂子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、亡清治は昭和三〇年一月二五日生れで本件事故当時は一九歳であり、中学卒業後、昭和四五年三月一三日から訴外松下電器産業株式会社辻堂工場に勤務し、昭和四九年一月から一〇月まで毎月の給与(本給の他超過勤務手当等を加算したもの)及び上期の賞与を合計して金八四万四四五五円を支給されたこと、本件事故により死亡しなければ六七歳時の昭和九七年一二月末日まで稼働することが可能で、その間昭和四九年においては少なくとも一一月、一二月分の本給各金七万一七〇〇円及び本給の二・九八か月分に相当する下期の賞与を得られたはずで、この額は金二三万二五八八円を下らないこと、昭和五〇年以降の期間については、全期間を通じて、賃金センサスの額(企業規模計、産業計、男子労働者、中学卒、全年齢平均給与額)と同程度の収入を得られたはずであり、昭和五〇年、同五一年は右各年度に対応する賃金センサス(前同)により、昭和五二年以降は、昭和五二年度の賃金センサス(前同)により右の額を算出すると、昭和五〇年は金二一六万三九〇〇円、同五一年は金二三二万三〇〇円、同五二年以降は毎年金二五五万九八〇〇円となるところ、右の額から同人の生活費としてその五割を控除し、更に年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除すると、亡清治の死亡による得べかりし利益喪失による損害の現在価額は金二二九五万五九二四円となる。

2  亡清治本人の慰藉料

亡清治は本件事故により死亡するに至る傷害を受け、多大の精神的苦痛を被つたことは容易に推認し得るところであり、本件事故の態様、同人の年齢等その他諸般の事情を考慮すると(但し、後記本件事故車に同乗するに至つた経緯は除く。)、これが慰藉料は金六〇〇万円が相当である。

3  相続

原告らが亡清治の父母であることは、原告らと被告賢二、同守男、同シズエとの間に争いがなく、前掲甲第七号証によると、原告らの他に亡清治の相続人のいないことが認められ、以上の事実によると、原告らは亡清治の前記1、2の損害賠償債権を法定相続分に従い二分の一ずつ相続により取得したことが明らかである。

4  葬儀費用

弁論の全趣旨によると、原告らは亡清治の葬儀を執り行ない、その費用として金四〇万円を支出し、それぞれ金二〇万円ずつ負担したことが認められる。

5  原告ら固有の慰藉料

原告山崎茂子本人尋問の結果によると、原告らは長男である亡清治を失い、多大の精神的苦痛を被つたことが推認され、本件事故の態様、亡清治と原告らとの関係その他諸般の事情を考慮すると(但し、後記亡清治が本件事故車に同乗するに至つた経緯は除く。)、これが慰藉料はそれぞれ金一〇〇万円が相当である。

6  好意同乗

亡清治は、亡武司と友人で、以前ともにスナツク「絵夢の森」に勤務したことがあり、本件事故当日も同スナツクの客として来店し、閉店後同スナツクの従業員らと一緒におでん屋へ行き、飲酒後帰宅するために本件事故車に同乗したことは前記認定のとおりであるから、亡清治はいわゆる好意同乗者として信義則上、右1、2、4、5の損害の一割を減額することが相当である。

よつて、前記損害額の合計は、原告らそれぞれについて、各金一四一一万一六五円となる。

7  損害の填補

原告らが、自動車損害賠償責任保険から、それぞれ金五〇〇万円の支払を受け、原告らの右各損害賠償債権に充当したことは原告らの自認するところである。よつて、未だ填補されない残債権額は、原告らそれぞれについて金九一一万一六五円となる。

8  弁護士費用

原告山崎茂子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、本件訴訟の提起追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬として金一八〇万円の支払を約していることが認められるが、本件事案の性質、審理の経過、認容額等に鑑みると、原告らそれぞれにつき金八〇万円が相当である。

よつて、損害額は原告らそれぞれにつき金九九一万一六五円となる。

五  次に被告千代田火災に対する請求について判断する。

1  被告千代田火災は、昭和四九年一〇月一五日、被告賢二との間で、本件事故車につき保険者を被告千代田火災、被保険者を被告賢二、保険期間を右同日から一年間、保険金額を死亡者一名につき金二〇〇〇万円とする対人賠償責任保険契約(家庭用自動車保険)を締結したことは当事者間に争いがなく、原告らが被告賢二に対して本件事故に基づく損害賠償請求権を有することは前記判示のとおりである。

2  しかしながら、右保険約款(乙第五一号証、丙第一号証)によると、約款上損害賠償請求権者に、保険者に対し損害賠償請求権はともかくとして無条件ないしは条件付にせよ直接の保険金支払請求権を認めた条項が存在しないことは明らかである。もつとも責任保険の目的等から司法的規制を加え、約款を補充して直接請求権を認めるべきであるか否かの問題はあり、商法六六七条は保険契約の第三者であるその物の所有者に直接の保険金請求権を認めており、右は責任保険すべてに類推適用されるべきであり、また責任保険の本質は被保険者である加害者の責任免脱請求権にあるが、その法的構造は「加害者の自己のためにする保険契約であると同時に被害者のためにする保険契約であつて、加害者の免責利益と被害者の損害賠償利益との両者が競合的に付保された契約」で、保険契約締結における被保険者の意思としては、自己自身の免責を目的とするとともに被害者の満足をも目的とし、むしろその本体は被害者の満足にあるのであつて、加害者の免責の利益はその反射的効果にすぎないから、約款上その定めがないとしても被害者の保険金直接請求権が認められるべきであるとする見解があり、法制上右の請求権を認める国のあることをも併せ考えると、右見解にも傾聴すべき面がないでもない。しかしながら、商法六六七条が他人の物の保管者に関する保険の規定であることはその文言上からも明らかであり、また契約締結の強制されるわが国自動車損害賠償保険において、損害賠償請求権についてではあるが、被害者の直接請求権を認める条項(自動車損害賠償保障法一六条)を改めて設けていることなどをも併せ考えると、右商法六六七条が他の責任保険すべてについても類推適用されるべきであるとは解し難く、また、責任保険の性格についても、責任保険契約はそもそも自己が将来損害賠償義務を負担することによつて損害を被る場合に備え、その損害を填補することを目的とするもので、契約の当事者、特に被保険者において右の目的意思の他に第三者たる被害者のためにする意思ならびに被害者に保険金の直接請求権を与える意思をも同時に有するものとは考えられず、また規範的にかかる意思があつたものとみるべきであるとすることも、意思主義をそこまで拡張して解釈することは疑問であり、当裁判所としては、前記のような積極的見解をとることはできない。

更に実質的に考慮しても、前記約款はその一章六条において、その一項で対人事故によつて被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生したときは、損害賠償請求権者は、保険者が被保険者に対し填補責任を負う限度において、保険者に対し直接損害賠償請求ができる旨定められており、その二項で、<1>被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決の確定、又は裁判上の和解、調停若しくは書面による合意が成立したとき、<2>損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾したとき、<3>被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する損害賠償責任額が保険金額を超えることが明らかになつたとき、<4>被保険者又はその相続人の破産若しくは生死不明、<5>被保険者が死亡し、かつ、その相続人がいないときは、保険者は損害賠償請求権者に対し、直接損害賠償額の支払を履行する旨定められているのであるから、敢えて解釈によつて約款を補充してまで損害賠償請求権者の保険金直接請求権を認めなければならない必要性はないものというべきである。

3  更に、原告らは、被告賢二に代位して、被告千代田火災に対し保険金の支払を求めると主張する。

しかしながら、前記約款五章一七条一項一号には、被保険者の保険者に対する保険金請求権は、損害賠償責任額について被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定し、又は、裁判上の和解、調停若しくは書面による合意が成立したときに発生し、これを行使することができる旨定められており、本件においては右のいずれの条件も満たされていないことが明らかであるから、被保険者たる被告賢二の被告千代田火災に対する現実的具体的保険金請求権はいまだ発生しておらず、従つて、原告らが被告千代田火災に対し、被告賢二の保険金請求権を代位行使するに由ないものといわねばならない。

なお、右約款に定めるように被保険者の保険金請求権につき条件を附するいわゆるノー・アクシヨン・クローズの効力を無効と解する見解も存するが、右約款においては前記のように損害賠償請求権者の直接損害賠償請求権が認められており、損害賠償請求権者の利益保護について手当てがなされているから、敢えて無効と解すべき理由はない。

そうだとするならば原告らの被告千代田火災に対する請求はその余の点を判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

(乙事件)

一  被告賢二、同守男、同シズエ主張の日時場所で、本件事故車が道路左端の街路燈鉄柱に衝突し、そのため本件事故車に乗車していた亡武司と亡清治の両名が即死したことは全当事者間に争いがない。

二  右被告らは、本件事故車は被告賢二が所有権留保付月賦販売で購入したもので、事故時亡武司が右被告賢二から借受け、更に亡清治が亡武司から借受け、自己のドライブに使用中であつたから、亡清治は運行供用者に当る旨主張する。右のうち本件事故車が被告賢二において所有権留保付月賦販売で購入したものであることは当事者間に争いがないが、亡清治が亡武司から本件事故車を借受け、自己のドライブに使用中であつたとの事実は認めるべき証拠がなく、かえつてさきに甲事件において認定したとおり、事故当時被告賢二の弟である亡武司が本件事故車を運転し、亡清治は帰宅のために同乗したにすぎないことが明らかであるから、亡清治は本件事故時運行を支配していたものとはいえず、運行供用者には当らないものというべきである。

三  次に、同被告らは、亡清治は運転上の過失により本件事故を惹起したもので、民法七〇九条により損害賠償責任を負う旨主張するが、本件事故時亡清治が事故車を運転していたものでないことは前記のとおりであるから、右の主張は前提において異なり、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  更に、同被告らは、被告千代田火災は被告賢二との間に本件事故車につき強制責任保険契約を締結したので、自動車損害賠償保障法一六条一項に基づき損害賠償額の支払を求めると主張する。しかしながら、亡武司が本件事故当時事故車を運転していたものであることは前記のとおりであるから、亡武司は自動車損害賠償保障法三条にいう「他人」に当らないものというべく、したがつて右主張はその余の点を判断するまでもなく理由がない。

また、同被告らは、被告千代田火災は、被告賢二との間に本件事故車につき対人賠償責任保険契約を締結しており、亡清治は本件事故当時事故車を被告賢二から借受けた亡武司から更に借受けてドライブ中であつたから、保険約款一章三条一項三号に準じ亡清治も被保険者である旨主張するが、本件事故当時亡清治が亡武司から事故車を借受けてドライブ中ではなく、亡武司が運転していたものであることは前記のとおりであるから、亡清治は被保険者に当らず、また前記約款八条二号により保険者は損害填補の責任を負わないものというべく、右請求はその余の点を判断するまでもなく、その理由がない。

(甲、乙事件結論)

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告賢二に対し各金九九一万一六五円、被告守男、同シズエそれぞれに対し各金四九五万五〇八二円及びこれらに対する本件訴状が右被告らに送達された日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五一年一〇月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、原告らの被告賢二、同守男、同シズエに対するその余の請求及び被告千代田火災に対する各請求ならびに被告守男、同シズエの原告ら及び被告千代田火災に対する請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条一項本文、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 福岡右武 金子順一)

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